書評

下浜 臨太郎

なぜ、ぼくらは寄付をするのか?

前に頂いて以来、ずっと本棚に眠っていたのをやっと読んだのですが、想像以上にわかりやすく読みやすかった本です。

希望をつくる仕事 ソーシャルデザイン

なぜ、ぼくらは寄付をするのか?

これまで、真剣に考えたことがありませんでした。熊本の地震は記憶に新しいですが、アフリカには常に飢えと病気で苦しんでいる人たちが山ほどいて…もちろん、そのどちらに手を差し伸べようと構わないのですが「なぜ?熊本」「なぜアフリカの子どもたち?」と訊かれると、はっきり答えられないんです。「自分よりも困ってる人がいる。その人の助けになりたい。」というところまではわかるのですが「では、なぜその人なのか?」ということがわからないんですね。必然性が自分の中にはないのです。お金での貢献には常にそういった疑問はつきものですが、おそらく「自分がどれくらい関係(関心)あるのか?」ということが一番大きな動機づけになるのでしょうか。悪く言えば興味本位…。私も東日本大震災では数万円の寄付をしました。それは、今思えば「東京が揺れたから」だと思います。逆に言えば、それくらいしか自分には関係がなかったことだったのです。お金での支援は簡単ではありますが「自分の関心」くらいしか動機となる要因はなく、突発的な関心での寄付では長続きしないことを実感しました。

じゃ、ボランティアは?

お金ではない支援としての「ボランティア」。寄付と大きく違うと思ったのは「自分との関係」とともに「自分の能力」が大きく関係してくることです。自分が得意なことで貢献できる、ということはお金とは大きく違う点ですよね。さらに、それが楽しいとなれば申し分ありません。社会貢献を長く続けられる一番のポイントは「それが楽しいかどうか」だと思うんです。いくら大きな使命を感じていても、楽しくないと続けられない。自分が「好きで楽しくて行動してしまうこと」と「社会的に価値があること」の交差点に幸せがありそうです。

好きなことで、誰かが助かる。

これが究極の幸せですよね。少し前に「好きなことで生きていく。」という大ヒットコピーがありましたが、これはボランティアに関わらず仕事にも言えることですね。ボランティアと言えば、誰かのために身を犠牲にするという印象が強いですが、自分が楽しむためにボランティアをする人も少なくありません。

この本には、楽しく社会貢献するやり方がたくさん紹介されています。社会貢献と言ってもそんな大がかりなことをしなくてもいいんだ、小さなキッカケでも楽しく社会貢献できるんだ、という事例が満載です。電通の本だけあってブックデザインもしっかりデザインされていて、わかりやすい。高尚そうな社会貢献が「楽しそう!」に変わる一冊です。 

希望をつくる仕事 ソーシャルデザイン

希望をつくる仕事 ソーシャルデザイン

 

 

 

 

なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?

実は私、この本をてっきりピカソについて書かれた本だと思って、よく見もせず買ってしまいました。

なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?

初めて直立歩行した原始人は偉い!?

「こんな絵、うちの子どもでも描ける!」とよく言われるピカソ。私は最近、美術史のさわりを勉強しているのですが、現代に生きている自分の価値観で、100年も前の絵を見てはいけないなぁ…ということを思います。それは、最初に直立歩行をした原始人の話を聞いて「え?立つとか誰でもできるんですけどwww」とツッコミをいれるのと同じだ、と思ったわけです。直立歩行は誰にでもできるけど、一番初めに立つのは難しい。そういった、ある種の発明のようなことと切っても切り離せないのが、近代から現代の美術だなと思うからです。そして、初めて直立したであろう原始人の骨、は当然高い値段がつくということですよね。そんな「もの価値とは、なんなのか?」と言ったことを生涯追求したのが、ピカソなのではないかと思います。

美術館では感じたままに鑑賞するのが、実は一番難しい!

美術館で作品を鑑賞するときには、「自分の感性を信じて」とか「見たまま感じたままに、鑑賞しましょう」と言われることが多いかと思います。それは、むしろ難しいことだと思うのですね。自分の感覚、つまりセンスを問われてしまうので、そのまま自分に返ってきてしまうからです。ときには「なぜ、この絵に価値があるのか?」「なぜ、こんなヘタクソで意味不明な絵が大事そうに飾られているのか?」というように「価値とはなにか?」ということを軸に鑑賞してみるのもいいかもしれません。実は、美術館ではその答えを教えてくれませんので、本やネット、詳しい人に教えてもらうなど、別の場所の情報と組合せて鑑賞し、紐解いていくのがよいでしょう。

アートとデザイン、どっちが価値がある?

私はグラフィックデザインを職業にしていますが、デザインした制作物の価値を理解してもらうこともなかなか難しいと日々感じています。デザイン制作物と美術作品における価値の大きな違いは「価値の耐久性」だと最近は強く思います。デザインの価値とは、いま現在機能すること。それがもっとも重要です。つまり自分のデザインした広告デザインが貼り出された次の週にはその商品の売上があがっている、そういったことですね。逆に、美術作品は未来にその価値をどれくらい残せるか?ということが、非常に重要になってくるのです。そして「世界で初めて直立歩行した原始人の骨」を現代人が鑑賞することで価値がうまれる、ということが起こりえるのが美術の世界なのです。ややこしい価値ですね笑。なので、芸術家が生きているうちには全く価値のつかなかった作品もたくさんあります。ゴッホなんかが有名ですよね。1枚しか売れなかったと言われています。

 そんな「価値」について、深く考えさせられる本です。とくに後半に関しては、「価値」をお金に換金するのではなく「信用」にすることこそ、未来の姿であるということが語られており、非常に共感したのでした。