書評

下浜 臨太郎

なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?

実は私、この本をてっきりピカソについて書かれた本だと思って、よく見もせず買ってしまいました。

なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?

初めて直立歩行した原始人は偉い!?

「こんな絵、うちの子どもでも描ける!」とよく言われるピカソ。私は最近、美術史のさわりを勉強しているのですが、現代に生きている自分の価値観で、100年も前の絵を見てはいけないなぁ…ということを思います。それは、最初に直立歩行をした原始人の話を聞いて「え?立つとか誰でもできるんですけどwww」とツッコミをいれるのと同じだ、と思ったわけです。直立歩行は誰にでもできるけど、一番初めに立つのは難しい。そういった、ある種の発明のようなことと切っても切り離せないのが、近代から現代の美術だなと思うからです。そして、初めて直立したであろう原始人の骨、は当然高い値段がつくということですよね。そんな「もの価値とは、なんなのか?」と言ったことを生涯追求したのが、ピカソなのではないかと思います。

美術館では感じたままに鑑賞するのが、実は一番難しい!

美術館で作品を鑑賞するときには、「自分の感性を信じて」とか「見たまま感じたままに、鑑賞しましょう」と言われることが多いかと思います。それは、むしろ難しいことだと思うのですね。自分の感覚、つまりセンスを問われてしまうので、そのまま自分に返ってきてしまうからです。ときには「なぜ、この絵に価値があるのか?」「なぜ、こんなヘタクソで意味不明な絵が大事そうに飾られているのか?」というように「価値とはなにか?」ということを軸に鑑賞してみるのもいいかもしれません。実は、美術館ではその答えを教えてくれませんので、本やネット、詳しい人に教えてもらうなど、別の場所の情報と組合せて鑑賞し、紐解いていくのがよいでしょう。

アートとデザイン、どっちが価値がある?

私はグラフィックデザインを職業にしていますが、デザインした制作物の価値を理解してもらうこともなかなか難しいと日々感じています。デザイン制作物と美術作品における価値の大きな違いは「価値の耐久性」だと最近は強く思います。デザインの価値とは、いま現在機能すること。それがもっとも重要です。つまり自分のデザインした広告デザインが貼り出された次の週にはその商品の売上があがっている、そういったことですね。逆に、美術作品は未来にその価値をどれくらい残せるか?ということが、非常に重要になってくるのです。そして「世界で初めて直立歩行した原始人の骨」を現代人が鑑賞することで価値がうまれる、ということが起こりえるのが美術の世界なのです。ややこしい価値ですね笑。なので、芸術家が生きているうちには全く価値のつかなかった作品もたくさんあります。ゴッホなんかが有名ですよね。1枚しか売れなかったと言われています。

 そんな「価値」について、深く考えさせられる本です。とくに後半に関しては、「価値」をお金に換金するのではなく「信用」にすることこそ、未来の姿であるということが語られており、非常に共感したのでした。